福山城主阿部伊勢守の用人・竹内金次郎に骨董品の目利きを頼まれて、シビンを五十両という高値で売りつけた宗俊。小唄の師匠・勘美津と共謀の美人局で、中野播磨守硯翁の用人・村上源之進から財布ぐるみを巻き上げて来た、御家人くずれの金子市之丞。インチキ賭博師を相手にいかさまを使って散々な目に遇って来た遊び人の暗闇の丑松。水茶屋の食代をインチキ賭博でごまかしてきた浪人くずれの直次郎。江戸は下谷の練塀小路、 御数奇家坊主河内山宗俊邸の馴染みの顔ぶれ、札つきの悪党連である。ある日、直次郎が、国許の母・おもんがやって来るから何とかしてくれと、兄弟分達に泣きついた。おもんは、直次郎の御目付衆に出世したという便りを真に受けて、せがれの立派な姿を一目見ようと江戸にやって来るというのだ。呆れながらも何か名案はないかと智恵をしぼる、根はお人好しの練塀小路の住人たち。--新しい下屋敷が完成して、空屋敷になっているはずの、硯翁の今戸の下屋敷が、燈に輝いてざわめいている。豪華な殿様衣装を着て御目付衆になりすました直次郎と、立派な衣装が窮屈そうなおもん、家臣姿の宗俊と市之丞と丑松、さらに臨時の腰元にかりだされた勘美津ら女性群がかしこまっている。空屋敷を無断借用しての宗俊演出の、直次郎親子対面の宴なのだ。しかし、硯翁が屋敷に舞い戻ってくるという予期しない事件が持ち上がったのはこんな時であった…